20240807

雨上がりの森の中で

 

 

 

標高2800メートル。
稜線を歩いている時に豪雨が襲って来ました。それはとても急なことで、最初一粒が体にあたって、「ん??」と思っている間にまた一粒、それからは容赦なく無限に落ちてきて、目の前も足元も雨しぶきで白くなりました。

 

風も強く、防寒対策で来ていたウェアがバタバタと大きな音を立てて揺れます。周りは岩と低い位置にハイマツが生えていたりいなかったり・・・
足を速めました。道は緩い下りでスピードは出やすい状況。足を滑らせないように気を付けながら・・・

 

とても有難いことに、20分ほど進むと山小屋があり、ぼくはそこで雨宿りをさせてもらいました。
小屋番の男性はとても親切で、この雨は1時間くらいは続くこと、雷も発生しているのでしばらくはここで休んで良いと言ってくださいました。

 

思い返すと西側にある北岳には厚い雲が早朝からかかっていたし、段々と風も強くなってきて雨が降る予兆のようなものを感じました。
山頂で会った男性とは、「この天気だと行程を速めた方が良いかもしれませんね」なんて話しながら別れました。

それでも7月の朝10時にこれほどの雨が降るとは思ってもいませんでした。(天気予報だって晴れと曇マークだったのに・・・)

今日中に南御室のテント場でテントを撤収し、登山口まで下山したかったのに、ここで時間を取られたらもう1泊する必要が出てくるかも知れない。それよりも今着ている服が乾いてくれないと寒くて仕方がない・・・落ち着かない気持ちで時間が過ぎるのを待ちます。

雨脚が弱まったころ、小屋番にお礼を言って歩き始めました。

テントを張っている南御室まで樹林帯を下ります。雨上がりの道は来た時とは別世界でした。湿度はありますが気温が低いので不快ではなく、その湿度の中で緑の濃い香りがします。
苔は生き生きとして鮮やかな緑色が目に飛び込んできます。鳥の鳴き声が様々な方向から聞こえます。ぬかるんだ土を踏む音も心地良い。

豊かな森の中を南御室を目指して進みました。

この雨上がりの緑の道歩きが心地よく、いつのまにか今日中に下山することをやめ、山の中の滞在時間を増やすことにしました。

南御室には13時到着。時間とともに服も乾きつつあり、これまでの不快感も解消されました。小屋でもう1泊テントを張ることを伝え、お金を払うと明日までの時間は自由です。

午後からは南御室近くの道を沢山歩きました。木々の切れ目から北東方向に街が見えました。苔は変わらずに美しく、ハッと息を飲む、つい立ち止まって見入ってしまう光景に幾度も出会いました。

日没前に夕食を済ませテントの中で過ごします。山岳用の1人用テントは必要最小限のサイズで作られていて、マットを敷いて荷物を置くと、もう床が見えなくなります。そんな狭さも携帯の電波がつながらないことも、今日は心地よく感じました。
荷物の整理と明日の準備をすると何もすることがありません。考えるのは今日の雨のこと、そして雨上がりの森を歩いたこと、明日歩く道のこと・・・・ぐろぐる思考が何往復もして、やがて朝を迎えます。

山登りは当然山頂を目指します。「早く山頂に立ちたい!」そんな気持ちで歩きます。稜線に出て、これから目指す頂上が見えると力が湧いてくるし、下山途中に山頂を振り返ると「あそこまで行ったんだ!」という達成感を感じます。すべて山頂が中心です。
でも登山の良さは山頂を踏むだけではないんだな、と改めて思いました。雨だからこそ出会えた森の中の世界がとても良かった。

ちなみにこの山登りをしている間、世間ではオリンピックが始まり、プロ野球のオールスターは終わっていました。
雨上がりの登山も良いし、デジタルデトックスが出来たのも良かった。

また新鮮な気持ちで日々過ごすことができそうです!

 

河田洋祐