結婚式や家族写真を撮ると、年配の方が(時にはそうでない方も)「わしの遺影に使える写真を撮ってくれ!」って仰ることがあります。
そんな時は「何十年先に使うつもりですか?」なんて軽口を言いながら撮るのですが、後日連絡があってご家族から「あの時に撮ってもらった写真を遺影に使わせてもらいました」と言われハッとすることがありました。
悼む気持ちは大きくありますが、自分が撮った写真を遺影に使っていただけたことは光栄だとも思います。
遺影の写真を撮らせていただくこと・・・
遺影とはその人が生きた証として後々まで残る写真です。その撮影を任せていただけることは素敵な仕事だと思います。
「まもなく100歳になる祖母の遺影に使えるような写真を撮ってください」
という依頼がありました。
100年間生きていた方の写真を撮らせていただける。とても有難いことです。
ちょうど秋らしいポカポカした陽が差す午後、私たちは明石公園で集合しました。
99歳のご本人をお孫さんが施設まで迎えに行き(車いすを載せられるレンタカーを探すのに苦労したと仰っていました)お孫さんにとってのお母さんと一緒に母娘3代が待合せ場所に揃っていました。
明石公園はかつてよく家族で遊びに訪れた場所とのことでした。みんなが替わるがわる車椅子を押しながら進みます。
ぼくが予め見つけていたポイントで撮って、その後大好きだったという池のほとりまで歩きました。
「お祖母ちゃん、ここよく来たね。ボートも乗ったね」
「そうか、そうやったわね」
お祖母様の頭の中には、40年前、お孫さんが幼かった頃の光景が蘇っているよう。
お祖母様は最近は丸一日ベッドで過ごすことが多いらしく、カメラを向けて話しかけても表情はあまり変わりませんでしたが、懐かしい風景に見覚えがあったようで、見る見る声に張りが出て眼にも光が宿りました。
金木犀も満開でした。香り立つ花に手を伸ばして、池に浮かぶ水鳥を背景に入れて・・
3人でもひとりでも・・ゆっくりと歩きゆっくりと撮影をした11月の午後。
十分に撮影をして、お祖母様の疲れも心配になって、公園の中で解散にしました。
家族3人で駐車場へと向かっていく後ろ姿を見送りました。
「今日撮影した写真の出番が当分先になりますように」という願いを込めて。
河田洋祐